猟期(地域によって異なりますが、多くは11月15日〜2月15日)が近づくと、地方では「鹿肉をもらう」場面が時々あります。私自身、わな猟を始めて獲物を捌くようになってから、地元の料理人仲間からも「これ、もらってくれ」と差し入れをいただくようになりました。
そんな時、目の前にドンと出てくるのが 鹿の後ろ脚の枝肉(骨付きの大きなブロック)。重さにして 約8〜10kg。「これ、どうやって食べるんだ?」と最初は誰もが戸惑います。
この記事では、ソロわな猟ハンターの私が実際に何度も解体した経験から、後ろ脚を4部位に分けてムダなく使い切る方法 を完全ガイドします。
そもそも「枝肉」とは?
枝肉(えだにく)とは、皮や内臓を取り除いた後の骨付きの大きな肉塊のこと。狩猟で獲った鹿を解体する時、最初にこの「枝肉」状態に分割します。
「ロマンとして一本まるごと焼いてみたい」と思う気持ちはわかります。私も一度だけ挑戦しましたが——外は焦げて中は生。火入れの難しさに打ちのめされました(笑)。現実的には部位ごとに分けて使うのがベストです。
後ろ脚は「お宝部位の集合体」|4つの主要部位
鹿の後ろ脚は肉量が多く、部位ごとに食感も味わいもまったく異なります。大きく分けると 外モモ・内モモ・シンタマ・スネ肉 の4部位。それぞれ最適な料理法があります。
部位① 外モモ|焼肉・薄切りステーキ向け
後ろ脚の外側にある大きな塊。繊維が太く、しっかりと鹿肉らしい味 を感じられる部位です。
ステーキにもできますが、火を通しすぎると硬くなるのでハードルは高め。初心者には薄切りにして焼肉用にするのが失敗が少ない です。
- 漬けダレに漬けて、隠し包丁を入れる → 歯切れが良くなる
- 厚みは3〜5mm程度に薄切り
- 七輪・ホットプレートで強火で短時間焼き
部位② 内モモ|ローストヴェニッソン向け
後ろ脚の内側にあり、外モモよりも柔らかく上品な赤身。塩・コショウだけでも上品に仕上がる、ごちそう向け部位です。
鹿肉は英語で Venison(ヴェニッソン)。「ローストヴェニッソン」と言うと、一気にレストラン風になります。ホームパーティーで出すと盛り上がる一品。
- 低温調理(58〜60℃で60〜90分)でしっとり仕上がる
- 表面はバターで強火カリッと焼き付け
- ベリーソース・赤ワインソースとの相性が抜群
部位③ シンタマ(芯玉)|薄切りでしゃぶしゃぶ・すき焼き
内モモの内側にある、旨味の強い赤身肉。スジが2本走っているので、丁寧に取れば極上の塊に。
私は薄切りにして使う派です。半冷凍にしてからスライサーで切る と扱いやすく、しゃぶしゃぶ・すき焼きにぴったり。味が濃いので、タレや割り下に負けません。
部位④ スネ肉|煮込みの王様
スジやアキレス腱を含む、「スジの王様」のような部位。生のままだと硬いですが、じっくり煮込むとコラーゲンが溶け出してトロトロに変身します。
- 洋風:鹿スネのワイン煮込み・シチュー
- 和風:筑前煮・煮しめ
- 圧力鍋なら30〜40分で柔らかくなる
手間はかかりますが、旨味がスープに溶け出すので「報われる料理」です。
解体に必要な道具
後ろ脚の解体に最低限必要な道具:
- 骨スキ包丁:骨と肉を分離する専用ナイフ
- 牛刀(または万能ナイフ):部位ごとにブロック化
- 大きめのまな板:8〜10kgの肉が乗るサイズ
- キッチンばさみ:腱を切るのに便利
- 使い捨て手袋:衛生管理
ナイフの選び方は別記事で詳しく紹介しています(解体用ナイフおすすめ5選 — 公開予定)。
真空パック保存と熟成のコツ
後ろ脚一本をさばくと、想像以上に肉が取れます。一日で食べきれる量ではありません。保存の質が、食べる時の満足度を決める と言っても過言ではありません。
おすすめは 真空パック機。空気を抜くことで酸化と乾燥を防ぎ:
- 冷蔵保存:約1週間
- 冷凍保存:半年〜1年
- 解凍時の血抜けが少なく、味が落ちにくい
温度・湿度を管理できる環境があれば、熟成(ドライエイジング) も可能。風味が深まり、ジビエ特有の香りがまろやかになります。
「温度と湿度を制する者が、ジビエを制する」——まさにその通りです。
食品衛生上の注意
鹿肉には E型肝炎ウイルス・寄生虫(住肉胞子虫等) のリスクがあります。
- 必ず中心部まで十分加熱(中心温度75℃以上で1分以上)
- 生食・半生は厳禁
- 解体時は手袋・消毒を徹底
- 道具は熱湯または塩素系で消毒
まとめ|「さばく・保存する」も含めて「いただきます」
鹿の後ろ脚をもらう、もしくは自分で獲って解体する——という体験は、都会では味わえません。自分の手でさばき、保存し、おいしく食べる。この一連のプロセスを通じて、食材への向き合い方が変わります。
命をいただくことの重みとありがたさ。これこそが本当の意味での「食育」だと、私は思います。
次回は、熟成した鹿肉を本格的なステーキで楽しむ方法をご紹介します。火加減の修行は、まだまだ続きます。
